My life! after diagnosed with BC

展示会見学に行ってくる

 先週、学会の全国大会が開催されていたので企業展示を見に行く。

細胞診組織診関連の展示がほとんど。私の病理診断をするのに使用した装置も展示されていて思わず話を聞かせてもらう。別ブースで手渡された研究用試薬のカタログに「Hallmarks of cancer」という概念が紹介されていた。

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がん細胞の典型的な特徴・特性といった意味のようだが、もらった資料の「Hallmarks of Cancer がん細胞の生存戦略」という書き出しが目を引いた。生存戦略と言った前向きな単語と結びつくのはなんとなく気分が悪い気もするが、細胞培養すればどんどん増えるこれらの細胞を表現するのにある意味ふさわしいのかも。そういえば以前細胞培養をしている人と話した時に「僕が使っているのはがん細胞なので放っておいてもどんどん増える」と言われた。その当時は培養しやすくていいですねー、くらいの会話だったが、今考えるとその異常さが怖ろしい。

「Hallmarks of Cancer: The next generation」という論文で、がん細胞は10の主要な特性を示し、発生から進展・転移まで、がん細胞が進化するように段階的に数々の特性を獲得していくことが仮説として述べられているそう。この特性は疾患の進行を促進するものとしてほとんどの腫瘍に共有されるとされている。この生存戦略に対抗する研究が日々進んでいる。


生存戦略は次の10個。それぞれどんな分野か、少しずつ調べてみた。

1. 増殖シグナルの維持:
がん細胞は正常細胞とは異なり、外因性の成長因子やサイトカインに依存しないで増殖する。シグナル伝達の制御不全が起きていてその経路の選択的阻害の研究が続いている

2. 増殖抑制シグナルに対する不応答:
細胞周期を停止するシグナルを伝達するはずのTGFβ受容体が進行を促進する可能性もあり、TGFβのシグナル伝達をブロックするための候補薬剤が数多く開発されている

3. アポトーシスへの抵抗:
多くの細胞傷害性抗生物質はDNA損傷を起こしてがん細胞においてアポトーシスを促進するが、すべてのDNAを損傷するので多くの副作用が現れる。副作用を避けるために、がん細胞と正常細胞で発現が異なる分子を標的となればいい。最近、腫瘍では発現し正常組織では発現しないアポトーシスを制御できるmiRNAが同定された。腫瘍のみの細胞死を促進する治療用抗mi-RNA薬が開発されるかもしれない

4. 無制限な複製能力:
細胞周期を制御したり、ゲノム安定性に関与し遺伝子発現の制御に重要な果たし「ゲノムの守護者」と言われるp53、DNAの修復と細胞周期を制御する腫瘍抑制タンパクで遺伝性乳がん卵巣がんにかかわるBRCA1, BRCA2もこのグループに含まれる

5. 血管新生の継続:
腫瘍細胞は栄養不足というストレスを克服するために、細胞内で不要となった物質や器官を処理するためのオートファジーを活用して血管新生を進めて炎症反応を制御し、腫瘍微小環境を調節する。腫瘍組織の周囲に血管を新生させて血管網を構築して栄養や酸素を取り入れたり、余分なものを排出したりする。またがん細胞が転移するためにも必要。血管新生にはVEGFどの細胞増殖因子が重要でその発現は腫瘍の悪性度と関係する

6. エネルギー代謝のリプログラミング:
低酸素や解糖、ミトコンドリア代謝。がん細胞において、低酸素誘導ストレスへの応答を仲介する。グルタミン代謝に必要な因子の多くは腫瘍細胞では異常を示すのでマーカーとして使用する。がん細胞は増殖力が高いのですぐに既存の血管から距離ができるが、エネルギー産生に酸素を必要としない嫌気的解糖系でエネルギーを得るので、低酸素になる。低酸素は治療抵抗性・再発やアポトーシスの回避、薬剤耐性の獲得、持続的血管新生などの転移・浸潤能の獲得や未分化性の維持、遺伝子不安定性の維持などの悪性化とも関連がある

7. 免疫系からの逃避:
免疫細胞ががん細胞など不要な細胞を特異的に認識するための免疫応答では、その免疫細胞が正常細胞に対して応答して傷害を与えることのないように数多くの免疫チェックポイント(Immune checkpoint)がある。一方、がん細胞の中には免疫システムからの攻撃を逃れるために免疫チェックポイントを悪用するものもある。そのいくつかの免疫チェックポイントに対しての阻害剤の効果が話題になっている。ニボルマブオプジーボ)とかキイトルーダとか

8. ゲノム不安定化と突然変異:
増殖細胞マーカー・タンパク質の代表で抗体で検出する Ki67 はここに含まれる。増殖細胞で特異的に発現し非増殖細胞では存在しないタンパク質を検出するという方法で、細胞周期の G0期以外の核内部や周辺部に存在している。そのタンパク質に特異的な抗体を用いて、免疫組織染色などで検出する。Ki67は細胞周期の G1期、S期、G2期、M期で存在するが、G0期には存在しない

9. 炎症の促進:
サイトカインの制御において重要な転写因子に異常が発生する

10. 浸潤と転移の活性化:
化粧品のCMなどでよく見るヒアルロン酸は細胞外マトリックスECM)に存在してほとんどの悪性腫瘍で劇的に増加していたり、接着分子や分泌因子が多くのがんの間質に沈着し、腫瘍細胞の進行に影響を与えていたりする。
 


そういえば、がん細胞を培養している人から低酸素状態の培養をしたいと相談されたことがあった、とかがん細胞は糖を取り込むとか色々思い出してきた。
ゲノム医療の推進で部位の横断も進むだろうし、がんの研究者も多いし、研究費もたくさんつく。先日のがんのゲノム医療のセミナーでも感じたが、たくさんの研究者がたくさんの研究してくれている。in vitroのデータでも今まで感じたのとは違う、期待や可能性を感じるようになった。ここ10年で大きく変わった、とも言っていたがこの先どんどん有効な治療や薬が出てきて制御可能な病気になる日が来る、それはそんなに遠くないと期待できるのではないかと思った。ほんとうに近い未来に、そうなるといいのに。