出発前、冬のインドはスモッグが酷く中国以上の空気の汚さと聞いていた。思っていたよりも空気はきれい(というか汚くはない)印象だが、荷物の上に載っての長距離移動は大変そうだなあ、とか
過積載すぎで地面に擦れそうな車や
道を渡る家畜の群れとか
を眺めつつ、アグラへ向けて約160km、約3時間30分の移動開始。
途中でおひるごはんに寄る。郊外の大きな邸宅風レストランで、青々した芝生の広―い中庭にテントが張られている。噴水もあって乾いた土地のオアシスのよう。外で食べる食事は気持ちがいい。ビールもおいしい。でも料理は普通。
何でも試したがる私にガイドがいろいろ提案してくれる。サトウキビを絞って飲める、ドライバーお勧めのピクルス屋があるけれどどうだ、等々。サトウキビジュースはどこでも飲めるのでピクルス屋に寄ってもらう。スリランカのカシューナッツ屋のような田舎の小屋。
レモンのピクルスがほしかったのだが、1Kgの瓶だという。さすがに大きすぎるのでtenti delaという地元の野菜らしきもののピクルスとチリのピクルスを買ってみる。観光客価格だとしてもとても安い。大きすぎるので断ったが買えばよかったかも。海外旅行の買い物は帰ってきて買わない後悔をするので悩んだら買う、と思いつつもなかなか手が出ない。そして毎回買ってくれば良かったと後悔している。
途中、ムガル帝国最盛期のアクバル大帝の廃都、勝利の都という意味の世界遺産、fatehpur sikri(ファテプールシクリ)に寄る。駐車場からバスに乗り電動カートのようなものに乗継、入口まで移動する。なんでもやりたがる延長で、支払いやチケットの購入も自分でやらせてもらう。
インドならではの仕事が細分化されたシステムの影響なのか、ガイド自身も自分で全部こなすわけではない。各施設でお世話係のような人がつき、いろいろ世話をしてくれる。ガイドは私にやらせようとするが、このお世話係が先回りして準備してくれてしまうのを、ガイドがやらなくていいと言っている様子。ものすごく怪訝な感じのお世話係に説明し、「全部やってもらうと僕たちの仕事がなくなってしまいます、失業です」と笑っていた。お金を払っても黙っているとチケットの半券をくれない。これがないとガイドは会社で清算できないので必ずもらってね、と言われるが日本語や英語で言ってももらえない。半券が出ない場合のお金は集金したスタッフのポケットに入るそう。(チケットを切った分だけ今日の売上分として事務所?に渡す)インドの入場チケットはレシートのような紙切れもしくは払うだけ、といった感じで記念にほしいというようなものでもないので気に留めていなかった。どのみち払うお金なのでその行先が彼らのポケットか正しい先なのかも気にもしていなかった。でも施設の整備や中で働く人たちのお給料の一部であろうチケット代はやはり正しい先に支払いたい。
赤砂岩で作られたか僅か14年で捨てられた幻の都だそう。ジャイプールのシティパレスやアンベール城でも感じた当時の権力者の力、ムガル帝国の絶大さを改めて感じる。
お腹もいっぱいだったので散歩がてらフルで廻ってもらう‥が、この都から感じるものは少なかった。建物にまつわる話や風景は面白いのだが、なぜか心が動かない。相性なのか。
柱の彫刻や透かし彫りが美しく、そこでポーズをとって写真を撮っているインドの若い人たちが面白かった。ほとんどが男性だが、ポーズを決めて何枚も写真を撮っている。チェックして撮りなおす。日本で韓国・中国の人たちがよくやっているのと同じだが、男性ばかりなのが珍しい。
電動カートで降り、駐車場まで歩く間に物売りが寄ってくる。スノードームや絵葉書を勧めてくれるが、どちらにも興味がない。要らないよー、と言ってあとは無視して歩くがずっとついてくる。もちろん値段はどんどん下がる。ガイドが同行者や売り子にわからないように英語で「安いよ、買ってあげれば?彼の助けになるよ」と言ってくる。「えー、本気で言ってる?この状況、私は買うべきだと思う??」と問い返すと「ほしいなら。不要なら買わなくていい」と言う。
うーーんとっても微妙。熱心に売りに来てくれるし大した金額ではないし、買うこと自体は問題ない。でもトルコの観光地で同じようにお土産売りの子供達に僕のも、私のも買ってと囲まれた事を思いだす。ほしいかと言われれば要らない。一生懸命売る努力をしている対価と思えば買ってもいい。でもほしくないものを買い始めたらきりがないし線引きがわからない。なのでほしいもの以外は断ることにしている。やはり多くを持つものが持たないものに分け与えるとか功徳を積むとかの感覚は私にはやはりむつかしい。(というかわからない)
夕刻アグラ着後。途中道が混んでいて日没に間に合わないのでは?と思ったが余裕をもってアグラ入り。アグラが近づくにつれてだんだんと賑わい始める。
道の交通量が増え、道路脇にはびっしりと屋台が並ぶ。一度ホテルにチェックイン後、ヤムナ川を挟んでマターブバーグ庭園よりタージマハールの夕景を鑑賞しに出る。大きな公園のようになっていてインドの人やオートリキシャをチャーターして来ている欧米人が多い。
この庭園は、シャー・ジャハン自らの墓として「黒いタージマハール」を建設する予定だった場所。時期的に夕日の位置がタージマハルから離れた位置に沈むこと、foggyというか霧っぽい空で、あまり赤くならないとガイドが言うとおり空がうっすらピンクに染まっただけだった。
夕日に染まるタージマハールの神秘的な光景を事前にWebの写真で見てしまっていたので、正直ちょっと期待とは違った。でも、夕暮れを待つ人たち、ゆったりと流れる時間も相まって、私は翌日の正面からよりもこの川越しの光景のほうが好きだった。
その後、プランに組み込まれていたアグラ城ライトアップを見に行く。ガイドが、「なぜこれが入っているのかわからない」と漏らしていた通り、ライトアップはされていなかった。
ホテルに戻って夕食。
キャンドルナイト、とレセプションに書いてあったが、手元もおぼつかないほどのキャンドルの量。暗くて何を食べているのかちっともわからない。IndianとChineseが選べたようだが、ガイドがあらかじめIndianをリクエストしていたらしい。インド中華は人気なようなので興味があったのだけど。
いつものように最初にトマトスープが出てくる。これには必ず大きなクルトンが入っているのだが、ひと口目で油が酸化した匂いがしてパス。
‥ここから、まさかの勢いで体調が急下降。座っているのがやっと、ムカムカして全然食べられない。同行者もあまり箸(スプーンだけど)が進まないようなので早々に食事を切り上げる。
インドの洗礼が最終日間近になってやってくる。まさかスープであたるとは。
部屋に戻ってからも気分はちっともよくならない。そうこうしているうちに吐き気が酷くなりバスルームにこもる。ひとしきり吐いたらすっきりするかと思いきや、今度は寒気で震えが止まらず体中が痛くなる。念のために持ってきたアクエリアスの粉末を溶かし枕元に用意。それが精いっぱいで、シャワーも浴びられず、着替えもままならないまま横になる。